スズキは2024年のニューモデルとして、新型スポーツバイク「GSX-8R」を発表した。このモデルは、好評を博しているネイキッドモデルGSX-8Sを基に、フルカウルとスポーティな足回りをまとった兄弟モデルである。ホンダのCBR650RやヤマハのR7、アプリリアのRS660などがしのぎを削る、今最も熱いミドルウェイトスポーツバイク市場へ、スズキが満を持して投入する注目の1台だ。またこの車種の兄弟モデルであるGSX-8R、GSX-8T、GSX-8TTも要チェックである。


心臓部はGSX-8S譲りのパワフルな並列2気筒エンジン

GSX-8Rの心臓部には、GSX-8SやV-STROM 800シリーズで実績のある776ccの水冷DOHC並列2気筒エンジンを搭載する。270度クランクを採用したこのエンジンは、Vツインエンジンのような鼓動感と豊かなトルクを特徴とし、最高出力は8,500rpmで82馬力を発揮する。
エンジンやギア比はGSX-8Sから変更されていない。スズキはかつてRG125Γでボア56mm×ストローク 50.6mmというショートストローク化によって高回転高出力化を果たした歴史もあるが 、今回のGSX-8Rではトルク特性が重視された。この点について、スズキのエンジン設計マネージャーである八木伸太郎氏は次のように語る。
「このエンジンは4,000rpmで最大トルクの85%、5,500rpmでは98%を発生させます。そして最大トルクは6,800rpmから8,800rpmという非常に広い回転域で発生します。我々はこの豊かなトルクをサーキットライディングでも活かしたいと考えました。」
つまり、日常的な場面での扱いやすさを犠牲にすることなく、スポーツ走行にも応えるエンジン特性を当初から狙っていたことがうかがえる。
よりスポーティな走りを実現する足回り

GSX-8Rの最も大きな変更点は足回りにある。サスペンションはGSX-8SのKYB製からショーワ製に変更された。フロントにはビッグピストンタイプの倒立フォーク(SFF-BP)が採用され、リアにはプリロード調整式のモノショックが装備される。かつてスズキはRG125Γにおいて、倒立フォークとリンク式リヤサスの足回りも125ccとは思えない高剛性仕様を与えることで、他を寄せつけないコーナリングパフォーマンスを発揮したが、GSX-8Rにもその思想は受け継がれている。
スズキのアシスタントデザインマネージャー、遠藤雄大氏によると、フロントフォークはGSX-8Sに比べて減衰力が30%強化されており、スプリングもよりリニアな特性のものに変更されている。「GSX-8Sは街乗りでの快適性を重視しましたが、GSX-8Rはサーキット走行もターゲットにしています」と遠藤氏は語る。
GSX-Rの血統を感じさせるデザインとライディングポジション

デザインは、スズキのスーパースポーツの象徴であるGSX-Rシリーズから着想を得ている。鋭い線で構成されたフルカウルは、スポーティな印象を強く与える。かつてのスズキのレプリカ路線はファンを惹きつけるスポンサーカラーを纏ったスペシャルな仕様がユーザーから注目を集めていたが、GSX-8Rのスタイリングにもその血統が感じられる。
ハンドルはGSX-8Sのアップライトなバーハンドルから、鍛造アルミ製のセパレートハンドルに変更された。これにより、よりスポーティなライディングポジションを実現している。しかし、そのポジションは過度に前傾が厳しいものではなく、ワインディングでのスポーツ走行からツーリングまで、快適にこなせる絶妙な均衡が追求されている。シート高は810mmと、このクラスとしては標準的で、足つき性にも配慮がなされている。
充実の電子制御

スズキ・インテリジェント・ライド・システム(S.I.R.S.)もGSX-8Sから引き継がれている。出力特性を3段階から選べるライディングモード、トラクションコントロール、そして標準装備された双方向クイックシフターなど、様々なデバイスが乗り手の走りを強力に支援する。メーターには、多彩な情報を表示するカラーTFT液晶ディスプレイが採用される。
GSX-8Rを自分好みにカスタマイズ

GSX-8Rはノーマルの状態でも高い完成度を誇るが、カスタムパーツを装着することで、さらに自分だけの様式を追求したり、用途に応じた利便性を高めることが可能である。ここでは代表的な改修メニューを紹介する。
- マフラー交換 サウンドや外観の向上、そして軽量化による運動性能向上が期待できるカスタムの定番である。かつてRGV250Γでは「片側2本だしマフラーと湾曲したスイングアームを採用 」し、「より深いバンク角が可能という先鋭化が進められた 」例もあり、マフラー交換は性能向上に直結する。JMCA認証を受けた車検対応のスリップオンマフラーや、サーキット走行を主眼に置いたフルエキゾーストシステムなど、国内外の様々なメーカーから投入されることが予想される。
- フェンダーレスキット リアタイヤ周りをすっきりと見せ、より軽快でレーシーなスタイリングを実現する。GSX-Rシリーズ譲りの鋭いテールデザインを持つGSX-8Rの魅力をさらに引き立てるだろう。
- ハンドルの調整・交換(ハンドルを下げる) 標準のハンドルは快適性も考慮されているが、よりスポーツ走行に特化したい場合は、ハンドル位置を下げることで前傾姿勢を強め、サーキットなどでのマシンとの一体感を高めることができる。調整機能付きの社外品に交換する選択肢も考えられる。
- ローダウン 標準のシート高は810mmであるが、足つきに不安がある乗り手のために、サスペンションのリンクプレートを交換して車高を下げるローダウンキットも有効なカスタムだ。より安心して自動二輪車を扱えるようになるが、バンク角の減少や操舵性の変化には注意が必要である。
- リアキャリア&パニアケース GSX-8Rのスポーツツアラーとしての資質を伸ばすカスタムである。かつてヨーロッパでは「各地の国際サーキットへ大きな荷物とタンデムで前傾レプリカが列をなして押し寄せる、一世を風靡した 」光景が見られたように、スポーツバイクでの長距離移動は魅力的な選択肢だ。リアキャリアを装着すればトップケースが取り付け可能になり、さらにパニアケースを追加すれば積載量が大幅に向上し、長距離ツーリングも快適にこなせるようになる。
- 各種アクセサリー 防風効果を高めるスクリーン、転倒時の損害を軽減するフレームスライダー、スマートフォン充電に便利なUSB電源、冬場の快適性を向上させるグリップヒーターなど、快適性や利便性を高めるアクセサリーは多岐にわたる。スズキの広報担当者が「お客様のご要望にお応えできるよう開発を続けてまいります」と語るように、今後純正アクセサリーの品揃えが充実することも期待される。
まとめ スーパースポーツとネイキッドの「いいとこ取り」

2024年型GSX-8Rは、サーキット直系のスーパースポーツのような過激さはないが、その分、日常での扱いやすさと快適性を高い水準で維持している。GSX-8Sの持つ乗りやすいエンジン特性はそのままに、よりスポーティな操舵性と様式を手に入れたGSX-8Rは、まさに「週末はワインディングやサーキットを楽しみたいが、普段使いの快適さも譲れない」という乗り手にとって、理想的な選択肢となるだろう。スズキの「スポーツライディングが好きなファンに向き合う姿勢 」や、「目標に対して諦めず妥協しない姿勢 」が具現化された一台と言える。
スズキ GSX-8R (2024) 主要スペック
スペック項目 | 詳細 |
エンジン | 776cc 水冷並列2気筒 DOHC 4バルブ |
最高出力 | 82bhp (8,500rpm) |
フレーム | スチール製フレーム |
サスペンション | フロント:ショーワ製 倒立フォーク / リア:ショーワ製 リンク式モノショック |
ブレーキ | フロント:ラジアルマウント4ピストンキャリパー、310mm径ダブルディスク |
シート高 | 810mm |
車両重量 | 205kg |
電子制御 | 3つのライディングモード、トラクションコントロール、双方向クイックシフター |
コメント