多くの乗り手にとって憧れの的であるBMW S1000RR。しかし、その輝かしい魅力の裏で、「S1000RRは壊れやすいのではないか?」という不安がある。
本稿では、そうした噂や懸念を払拭すべく、オーナーの生の声、公式のリコール情報、そして具体的な維持費のデータに基づき、「S1000RRは本当に壊れやすいのか」という問いに、客観的かつ深く切り込んでいく。
「壊れやすい」の噂を検証 S1000RRの故障事例
「壊れやすい」という評判は、一体どこから来るのであろうか。オーナーの報告を分析すると、漠然とした信頼性の低さというよりは、特定の箇所に不具合が集中する傾向が見えてくる。

電気系統のトラブル:最も報告の多い弱点
S1000RRの不具合報告で最も多く見られるのは電気系統であり、特にハンドル周りのスイッチボックスに問題が集中している 。具体的には、セルスイッチが故障する事例や 、水温が105度付近まで上昇した際に「エンジン制御内に故障」というエラーが表示されるといった報告が複数存在する 。これらの不具合は、ECUのような中枢部品が偶発的に故障するというより、特定の構成部品に起因する既知の弱点である 。
エンジン・冷却系のトラブル:高性能の代償
200馬力を超えるS1000RRのパワーユニットは、その性能と引き換えに、いくつかの注意すべき点を抱えている 。
報告されている主な不具合は、冷却水の漏れや、より深刻なカムチェーンの摩耗である 。特にカムチェーンの摩耗は、サーキット走行などでエンジンを高回転域で酷使する乗り方と強く関連しており、2014年式のモデルではカムチェーンテンショナーの不具合が持病として知られている 。その他、慣らし運転中に原因不明のエンジンストールが発生したとの報告もある 。
公式リコール情報の徹底分析
2021年 エンジンバルブに関するリコール (届出番号: 外-3303)

2020年式の190台が対象となった重大なリコールである。エンジン内部のインテーク及びエキゾーストバルブの表面加工が不適切で、バルブガイドが早期に摩耗。最悪の場合、エンジンが停止し走行不能に至るおそれがあった。対策として、対象車両はすべてシリンダーヘッド一式が対策品に交換された。
2019年 オイルクーラーに関するリコール (届出番号: 外-2966)

2019年式の64台が対象であった。オイルホースの接続クランプの形状が不適切で、ホースに亀裂が入りエンジンオイルが漏れる可能性があった。漏れたオイルがリアタイヤに付着すれば、走行安定性を損なう危険な不具合だった。
2023年 ブレーキレバーに関するリコール

2022年式の38台が対象であった。ブレーキレバー内部の部品の寸法精度に問題があり、ブレーキ性能に影響を与える可能性があった。
これらのリコール、特にエンジンに関するものは、「壊れやすい」というイメージを裏付ける事実かもしれない。しかし、見方を変えれば、メーカーが問題を認識し、ドイツ本国からの情報に基づいて迅速にリコールを届け出て、無償で対策を行っている証拠でもあるのだ。これは、メーカーとしての責任ある姿勢の表れであり、長期的に見ればオーナーにとって安心材料と捉えることもできる。
維持費は国産の倍か?現実的な運転資金を解剖する
点検・車検費用
BMW正規ディーラーでの整備は、専用の診断機器を用いた電子系統の点検などを含むため、国産バイクに比べて高額になる傾向がある。
- 法定2年点検(車検): 部品交換がなければ、約10万円が目安である。
- 法定1年点検: 約2万5千円から4万5千円が相場であるが、整備内容によってはこれを大きく上回ることもある。
修理費用と消耗品
- 修理費の例:
- グリップヒーターの交換: 約5万円
- カムチェーンの交換: 約10万円
- フロントフォークASSY: 50万円以上
- ブレーキレバー1本: 約2万円
- 部品の納期: 国内に在庫がない場合、本国からの取り寄せで2ヶ月待ちといった事態も珍しくないようだ。
- 消耗品:
- タイヤ: ハイグリップタイヤを装着することが多く、交換費用は1セット5万円~10万円と高額だ。
- チェーン: 純正チェーンは錆びやすいという指摘があり、こまめな手入れが不可欠である。
これらの情報を基に、街乗り中心の年間5,000km走行を想定した維持費を試算した。
維持費表
項目 | 年間費用目安 | 備考 |
---|---|---|
固定費 | ||
自賠責保険 | 約5,000円 | 24ヶ月契約を年割で計算 |
重量税 | 約2,500円 | 24ヶ月契約を年割で計算 |
任意保険 | 約40,000円~80,000円 | 年齢・等級・補償内容により大きく変動 |
定期的整備 | ||
車検費用 | 約50,000円 | 約10万円の2年ごとの費用を年割で計算 |
1年点検費用 | 約35,000円 | 大きな部品交換を含まない基本料金 |
走行関連費 | ||
オイル・フィルター交換 | 約25,000円 | ディーラーで年2回交換を想定 |
タイヤ交換 | 約40,000円 | 1.5年で1セット(約6万円)交換を想定 |
チェーン・スプロケ交換 | 約10,000円 | 3~4年で1セット(約3.5万円)交換を年割で計算 |
ガソリン代 | 約54,000円 | 燃費15km/L、ガソリン代180円/Lで計算 |
年間維持費 合計目安 | 約26万円~30万円 | 突発的な修理代、カスタム費用、駐車場代は除く |
【オーナー体験談】それでも私がS1000RRに乗り続ける理由
これまでの情報だけを見ると、S1000RRは手のかかる、金のかかるバイクという印象が強いかもしれない。しかし、多くのオーナーはこれらの弱点を理解した上で、このバイクに乗り続けている。その理由は、弱点を補って余りある、圧倒的な魅力があるからだ。
受け入れるべき弱点
オーナーになるなら、以下の点は覚悟しておく必要がある。

夏場の渋滞路で、フレームが熱くて火傷しそう…



燃費は街乗りでリッター15km前後、時には10kmを切ることもある。



積載性はほとんどない。特にMパッケージのシートは硬く長距離には不向きすぎ・・・
S1000RRクソ熱い(笑) pic.twitter.com/BnOAMbuyCJ
— がく (@hp2sport_) July 4, 2023
S1000RRの2022年式の燃費です。
— S1000RR TRD HRG (@tsubatomitsu) December 9, 2021
街中で高速道路は使っておりません。
この前写真撮って、、、😳
9.8km/ℓ
SSで燃費とか気にした事ないけど、流石にびっくり🤣 pic.twitter.com/TPwkG2ivTA
S1000RRでキャンプするにはまずこのゴミのような積載性でいかに荷物を積むか考えないといけん… pic.twitter.com/LeqDv4zVTH
— さば (@sabarider) November 20, 2019
何物にも代えがたい魅力


これらの弱点を受け入れてでも乗りたいと思わせる、S1000RRだけの報酬があるのだ。
- 脳が痺れるほどの圧倒的性能 オーナーたちは口を揃えて「暴力的なパワー」「人間の扱える限界を超えている」と表現する。その加速はまさに異次元で、このバイクの真価はサーキットでしか味わえないのである。
- 乗り手を支える最先端の電子制御 絶品と評されるクイックシフターや、緻トラクションコントロール、レースABSといった電子制御が、常人には扱いきれないパワーを安全に引き出すことを可能にしている。
- 驚くほどの乗りやすさ これだけの高性能マシンでありながら、「物凄く乗り易い」という評価が非常に多いのも特徴である。低速トルクも豊かで扱いやすく、グリップヒーターやクルーズコントロールといった快適装備のおかげで、スーパースポーツとしては驚くほどツーリングもこなすのである。
結局のところ、S1000RRは日常の足として使う汎用的なバイクではなく、その性能を味わうために特化した「専門家の道具」なのだ。公道を走るレーサーを手に入れるということを理解し、そのための費用と妥協点を許容できる乗り手にとっては、これ以上ない満足感を与えてくれる相棒となるのである。
まとめ


BMW S1000RRの「壊れやすい」という評判について、様々な角度から検証してきた。最後に、本稿の要点をまとめていく。
- 「壊れやすい」という噂は、漠然としたものではなく、ハンドルスイッチや熱対策といった特定の弱点に起因することが多い。
- エンジンに関わる重大なリコールがあったのは事実であるが、同時にメーカーが責任を持って対策を行っている証拠である。
- S1000RRを所有する上での最大の障壁は、国産バイクに比べて格段に高い維持費・修理費である。
- 強烈な熱や実用性の低さといった明確な弱点を受け入れる覚悟と引き換えに、世界最高峰の性能という何物にも代えがたい報酬が得られる。
結論として、BMW S1000RRは、絶えず故障に悩まされるような脆弱なバイクではない。しかし、その性能を維持するためには相応のコストと手間を要求する、デリケートで高価なスーパースポーツであることは間違いはない。
まずは試乗によってその圧倒的な性能を体感し、その維持に見合う価値があるかを乗り手自身が見極めること。それが、最高の相棒関係を築くための、最も重要な段階となるはずだ。
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